★ fellowly ★


何か、探すものを持つといい。
古の秘宝、神々の謎、失われた伝説。
答えがなるべく、遠いもののほうがいい。
今側に寄り添う人ではなく、歩み行く先に求めるものを決める。
それが、我々の長い時をやりすごす最善の方法だ。

そう言った彼は、獣人の言葉を理解する術を探すと言ってある日旅立った。

彼は、自分にもまた共に歩むことを許さなかった。
同じ「長い時」を共有しているはずの我々。
が、それでも彼より200年若い自分。
転生して最初に知ったのは、仲間のあいだにもまた、
埋められない「長い時」があることだった。

 
ひょんなことから手に入れた、一枚の鏡。
なにか特別な謎を含んでいるのはあきらかだった。
どんな謎かはわからない。手がかりさえない。
だからこそ、それを探すことに決めた。
「答え」ではなく「道標」。
鏡のおかげで、私は町々を巡り世界を歩く理由を手にいれた。
長い時をかけて。

 
彼女に出会ったのは、そんな中でだった。
ある時急に鏡に映った影。
実体となって目の前に現れてから、物語が急にはじまった。
いくつもの事件と謎が、めまぐるしく襲い、やがて解決した。
 

すぐに鏡のなかの影は消えた。
同じように、彼女も自分の前から消えるはずだった。
たしかに、連絡用にとパールを渡したのは自分だ。
が、町々で出会ってきた人々のように、 彼女と「連絡」しあうのも、数日か、数週の間だけのはずだった。

 
しかし相変わらず
彼女は嬉々として私を呼び出すことをやめない。

 
最初は、戸惑った。
いや、正直に言えば「困った」。
彼女の友人や知人が、すれ違う度に意味深な笑いでひやかしていく。
ぜんたい、「困る」以外のなにものでもない。
彼女は自分の知らないところで、一体何を語っているのか。

彼女と自分は種族が違う。
それ以前に、ガルカは伴侶をもたない。
ひとりで生き、ひとりで転生をする。ゼロから長い時をはじめるために。

いや、そういう話なのではなく。
彼女の「好意」がどんな類のものなのかは置いておくとしても、
とにかくそれが重かった。
いずれ自分はひとりで旅立つことになる。
自分より必ず先に、彼女の時は終わるのだから。
彼女がなにか特別、だから思うわけでもない。
ただ、私にとってすべての出会いは数日でいい。
いつもひとりの道に慣れてきたし、これからもそれを行きたい。

 
が、ある時気づいた。
彼女もまた、ひとりの時があるのだということを。
祖国の話を、彼女はよくする。
大好きだという景色。
レストランのおいしいメニュー。
週末に賑わうという吊りのスポット。
「釣り」ではないかと尋ねたが、吊りであっているらしい。

 
が、彼女は国の「仕事」の話を、決してしない。
明日は狩りに出られない。ミッションに行くから。
そう自分に告げた彼女は、見たことのない、遠い目をしていた。

そのときは決して、私を呼ばない。

おそらく彼女は、自分といるときとは違う
自分と歩くよりずっと真剣な道を歩いているのだろう。

 
彼女と自分は、体格の分だけ歩幅が違う。
それはもう、ずいぶんと違う。

私と並ぶと、必死で股を広げて跳ねるようについてくる彼女。
それでもときどき差があきすぎて
立ち止まって待つことになる。

かと思えば、気づくと追い越されていたり。
私のほうが慌てて走って追いかける羽目になる。


最初は不思議だった。
が、そのうちにあたり前になった。

駆けるように軽やかにすすむ彼女。
一歩ごとゆっくりと踏みしめる自分。

一緒に歩くのはほんの一瞬。
狩りが終われば別れて、それぞれの道へ帰る。

ただ、その一瞬だけは、二人同じペースで歩けるよう、待ったり、追いかけたり。

少しの間だけ肩を並べるのがいつしか自然になった。
 

 

私の前につづく、先の見えない長い時。
やはり私は、その道をひとりでゆくのだろう。
周りの駆け足の空気を感じながら、でも一歩一歩重い時間を踏みしめるように。
すれ違う人々とは、一緒の道はたどれない。

 
でも、数歩だけでも。
ゴールは違っても。
ときに並ぶ相手がいても、いいのかもしれない。
すぐに分岐はやってきて 別れることになるのだろう。
ただそこまでの道づれ。
そのくりかえし。
それも、いいじゃないか。

 
ふと、思い出す。
私に長い時のことを告げた彼は、どうしているだろう。
謎を追ってひとり旅立ったまま、噂を聞かない。
でもどこかで 私と同じように
数歩の道連れを見つけているのではないだろうか。
そんな気がなぜだかする。

 
・・・のは、彼女の妄想癖・・・もとい、ロマン主義に影響されたのだろうか?

 
なんて考えて、失笑する。
人に影響を受けたかどうかなど、自分が考えるようになるとは思ってもみなかった。

私は、変わったのだろうか。
変わるまでの私はずっとひとりだったのだから、それを言える友人はいない。

 
「ええ、変わったわよね。」

 
が、ルト・ミュラー。
この掴みどころのないミスラもまた、呆れるほどはっきりと私に断言する。
このミスラが知る私の時間など、これまでの長い時のなかの瞬きほどにしか過ぎないのに。
だが、彼らに出会ってからのめまぐるしさを思う。
自分にとってはほんの短い時。
でも、確かに、変わるには十分だったかもしれない。

 
「それよりジュゴワ、たのみたい仕事があるんだけど。
 またあなたたち2人の力を貸してくれないかしら?」

 
「わかりました。連絡してみましょう。」

 
パールを取り出す。小さな輝き。
私には絶対にできない駆け足で向かってくる小さな靴音が、もう聞こえる気がする。

 



écrivassière : みやぴん
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送