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ジュノは大きな街で、いろんなものがあってすごくきれいで、3日間の滞在はあっという間に過ぎた。

 この旅行以来、僕は委員長のことがちょっとだけ怖くなくなった。しゃべれるようになったぶん、そりゃいやみを言われる機会も増えたけどさ。
 クロイドモイドは僕なんかよりもっとよく委員長と話している。よく話してるけど、その度にけんかもしている。けんかというか、クロイドが一方的に委員長にいやみを言われてるっていうのかな。言い返せないクロイドモイドは、その場ではカっとなるけど、そのあとすごく勉強してるみたい。

 ハイクラスでの毎日が、楽しくなってきた。けど、それもあとちょっとの間かな。僕らの卒業の日は迫ってきている。クラスのみんなも少しずつ、進路を決めてるみたいだ。
 僕はどうしよう。早く決めないとと思うけど、やっぱり気が重い。「できること」って考えると、そこから先に頭がすすまない。そりゃ、行きたかったところはあるけれど・・・・

 
 
 「え、キミは口の院に決まったんじゃないの?」

 へ、と理解できないまま口をあんぐりと開けてしまった。
 魔光草の明かりがともる、放課後の職員室。
 「ハックルリンクル、ハイクラスの生徒だろう?
  ・・・うん。口の院だよ。推薦状がでてる。」
 名簿に指をすべらせながら、先生はもう一度確かめるように僕の目を見てうなずいた。
 「ちょ、まってください 推薦状って」
わけがわからなくて聞き返す。決まったって、僕なんにもまだ提出してないし。そもそも推薦? 僕を? 誰が? あの口の院に?
 「ほら、ハイクラストップの成績で・・・ゾンパジッパ院長の息子さん。
  彼が、口の院から招聘されるにあたって、ぜひキミもと推薦したんだよ。
  なんだ、了解済みだとばかり思ってたのに、違ったのかい?」

 
 
 職員室を飛び出して、僕は走った。
 とにかく走って、学校の裏手の階段を駆け上がって、寮の扉をあける。
 食堂ではいつもの席に、委員長とクロイドモイドが向き合っていた。

 「おや、今日は遅かったですねハックルリンクル」

こちらを振り返ったクロイドモイドに返事もしないで、僕は突かれたように喋りだす。

 「い、いんちょうっ・・・ぼく・・・えっと」

だめだ、息が切れて、声にならない。

 「やれやれ、言葉もマトモに喋れなくなったのか?」

委員長がため息とともに肩をすくめる。

 「その、口の院に!」

叫ぶようにして、やっとそれだけ言った。ぜえぜえと、まだ息がとまらない。
ぱちり、と眼鏡の下で瞬きをして、

 「ああ、今頃聞いたか。」

委員長はこともなげに言った。

 「なんだ、イヤだったのか?」

聞かれて僕はぶんぶんと首を振る。イヤなわけない。イヤなわけなんてない。
ちっちゃなころから、憧れだった。夢だった。魔道院。大戦で活躍した戦闘魔道士団に、ずっとずっと、憧れていた。
 でも大きくなって周りを知れば知るほど、夢はどんどん遠く届かなくなって。考えることもできないくらい、ほんとにただの、夢になってた。・・・なってた、ハズなのに。

 「でも・・・なんで・・・」
 「何でお前たちを推薦したのかって?」

まだよく言葉のでてこない僕の代わりに、委員長がつなげた。その眼鏡の奥をじっとみつめて、僕はうなずく。

 委員長は、一口お茶を飲んだ。そして口を開く。

   「クロイドモイドは状況を俯瞰的に把握できるし、
   的確な作戦を指示する知識がある。」

言われたクロイドモイドが、目をつぶったままこほん、と咳をした。ちょっと頬が赤い。

 「でも、僕は・・・・」

信じられなくて、答えの前にまた声がでてしまった。
委員長はふ、と可笑しそうに笑うと

 「お前はまわりのことをきちんと見てるし、自分をちゃんと知っているだろう?」

言って、目を丸くする僕をにやりと見つめた。
 「それに、クロイドモイドと俺じゃ、あまりに人間味ってものがない」
そうつけ足してまたお茶を飲む。
ちょっと眉をしかめたクロイド。けど口元は笑っていて
 「なるほど、たしかに」
いつもの静かな声でそっとつぶやく。

 
「イヤなのか?」

委員長はもう一度さっきと同じことを尋ねた。
「イヤだなんて!そんなわけないよ!」
僕はこんどは、声にだして言う。

「じゃ、決まりだ」

委員長は満足そうに言ってコップを掲げた。
こほんと咳払いをして、クロイドも持っていたグラスをあげる。
あわてて僕も目の前のコップに手を伸ばした。

「いくぞ。」

かこん、と鈍い音の乾杯。
へんな響きだけど、僕はもうそんなことなんか気にならなくって。

一気にコップの中身を飲み干す。
ぷはって言って目をあけたとき、委員長とクロイドも笑ってたのが見えた。

 

おしまい。



écrivassière : みやぴん
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